風 山 堂

(foussin's diary)

蝉 (1)

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NHK Eテレ 10 min. ボックス(古文・漢文)『おくの細道(松尾芭蕉)』より
http://www.nhk.or.jp/kokugo/10min_kobun/index_2013_016.html


  閑(しずか)さや
  岩にしみ入(いる)
  蝉の声


 中学生の時… 現国の授業で、教師がこの句について一席ぶったのが、今も忘れられない。現国教師は、こう言った。


 この句は『意識と無意識を去来する様』を表現したものである。


…と。教科書にそんなことが書かれていたのかどうかは不明。当時の教科書が手元に無いので(捨てちゃったらしい、実に勿体無いことをした)。


 つまり、こういうことだ。

 人は何かに集中していると、周りの騒音が全く聞こえなくなる。その時の世界は静寂そのもの… ところが、ハッと我に返った途端に騒音が耳に入ってくる。

 おそらく、芭蕉は考え事をしていた。もしくは瞑想に耽っていたのだろう。周りでは蝉がけたたましく哭いていたが、芭蕉の耳には全く聞こえていなかった。が、何かのはずみで現実世界に引き戻される…途端に、自分が蝉しぐれの騒音に包まれていたことに気付く。この不思議な感覚を『岩にしみ入』と表現した。


 中学生だった自分は、手垢にまみれた古典であると思っていた俳句が、こんなにも超現実的な世界観を表現していることに衝撃を受けた。そして、それを分かり易く説明してくれた現国教師を、ちょっとだけ尊敬した。彼は、元々は小説家志望だったが、挫折したとか言っていた…。

 現在でも、サスペンス物とかで『蝉しぐれ』はよく使われている。例えば…


  目の前に血だらけの女が倒れている。

  海の底にいるみたいに静かで、自分の鼓動しか聞こえない。
  ふと、自分の右手に果物ナイフが握られているのに気が付いた。
  ま、まさか、私が…?

  …蝉しぐれが、私を包んだ……


…なんてね。